pleroma.tenjuu.net

届いたばかりの『社会経済史学』89巻4号に掲載されている田中醇「北部九州における「甘い醤油」定着過程の検討 筑豊地域醤油醸造化の「アミノ酸醤油」製造に着目して」という論文が面白いです。私も九州に来て、醤油の甘さに驚きましたが、その原因に迫った論文です。

そのキーになるのが、アミノ酸液を添加した「アミノ酸醤油」です。私はその名は戦時中の粗悪な代用品として知ってはいましたが、北部九州では1930年代後半から作られており、しかもそれは消費者から「人気があった」のです。その背景には、柳井名産の甘露醤油という、甘い高級醤油の存在がありました。

replies
1
announces
4
likes
1

甘い醤油が高級という通念のあった北部九州では、大正時代から甘味料を添加した醤油があり、アミノ酸醤油は甘味に加えてうま味も増えるので、甘露醤油の代用品として人気が出たのだそうです。そのような背景のなかった関東では、アミノ酸醤油は粗悪な代用品として嫌われ、戦後消滅します。

アミノ酸醤油が東西で命運を分けたのは、戦時中の統制も影響しました。太平洋戦争下は醤油も統制されますが、添加するアミノ酸液はまた別に統制されたので(縦割り!)、北部九州ではアミノ酸液が不足する一方、関東では粗悪なアミノ酸液の添加が進んで消費者から不評を買ったのだとか。面白いですね。