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「長崎で見たときはなんでもなかった踏絵が私の心にかかりだしたのは、東京へ帰ってきてからだった。(中略)

あの黒い足指の痕を残した人びとはどういう人だったのか―――と誰もが考えるように、私も考えた。自分の信ずるものを自分の足で踏んだとき、いったい彼らはどういう心情だったのだろう。」

「踏絵に足をかけていった人びとの話は、私にとってけっして遠い話ではなかった。むしろ切実な問題だった。〈信仰〉などと言うと縁遠い話になるのなら、〈自分の生き方や思想・信念を暴力によって歪められざるをえなかった人間の気持〉と考えてみればどうだろう。誰にでも痛いほどに分かる問題のはずだった。
踏絵の足指の痕は、他人事ではない。」

遠藤周作『沈黙の声』

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