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描かれた歴史

『描かれた歴史 近代日本美術にみる伝説と神話』1993年(兵庫と神奈川の近代美術館の共催)のカタログに収録されている論考を2本読んだ。面白い。平易な文章なので新書とかになったらいいのに。
ひとつめは山梨俊夫「「描かれた歴史」-明治のなかの「歴史画」の位置」で、歴史の図像の変遷、画家たちの国家と歴史への意識、とりあげる主題や言説の変遷がざっくりと把握できるようになっている。歴史主題の作品をどう見るか、解像度が上がる。青木繁の絵(天平時代主題)がなぜ評価されているのかやっと腑に落ちた。
ふたつめは木下直之「戦争が歴史に変わる時」で、日清・日露戦争の絵と写真について。太平洋戦争の作戦記録画に焦点が当たりがちだが、明治の戦争表現がどう作られて見られたのか押さえるのは重要。浅井忠の「旅順戦後の捜索」は日本軍による民間人の虐殺が行われた惨状を描いているが、だからといって浅井は真実を描いたのだと、さらには反戦画なのだという評価はあたらず、絵画がどう受容されたのか背景を理解しなければならないという筆者の主張に頷くしかない。そして気をつけなければならないなと思う。

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描かれた歴史

@miyarisayu 明治の画家たちの、絵は何かの役に立たねばならないという信念はどこから来たのだろう。これが国家の要請とすんなり沿うのだけど、画家たちの日記など読んでいると、そもそも価値観として持っているようだ。「精神の涵養」という概念は何由来なのだろう。

描かれた歴史

@miyarisayu 関係ないかもですが、正岡子規も自分達の俳句や写生文の革新について、文学は「大砲」であるとも書いていて、「役に立つこと」をあからさまな戦争のメタファーで書いていて驚いたことを思い出しました。明治国家が若い国家で、「役に立たなければ」は自明の前提だったのかもしれないです。

描かれた歴史

@moriful2 え、子規がそんなことを書いているんですか。それは興味深いです。そうしたことを切り口にした評論もあるのでしょうか。
幕末に生まれ育った人たちに根付いていた道徳観もあるのかなあと思うのですが、よく分かっていないです。

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@miyarisayu 江藤淳(か別の人)の評論で(しかも肯定的に!)引用されていて記憶に残っています。思い出せましたらお知らせします。
彼らがどういう気持ちでどんな雰囲気だったのか、ちょっと想像がつかないです。

描かれた歴史

@miyarisayu 『歌よみに与ふる書』でした。第6回に

「日本文学の城壁ともいふべき国歌」云々とは何事ぞ。代々の勅撰集の如き者が日本文学の城壁ならば、実に頼み少き城壁にて、かくの如き薄ツぺらな城壁は、大砲一発にて滅茶滅茶めちゃめちゃに砕くだけ可申候。生は国歌を破壊し尽すの考にては無之、日本文学の城壁を今少し堅固に致したく、外国の髯ひげづらどもが大砲を発はなたうが地雷火を仕掛しかけうが、びくとも致さぬほどの城壁に致したき心願有之

従来の和歌を以て日本文学の基礎とし、城壁と為なさんとするは、弓矢剣槍を以て戦はんとすると同じ事にて、明治時代に行はるべき事にては無之候。今日軍艦を購あがなひ、大砲を購ひ、巨額の金を外国に出すも、畢竟ひっきょう日本国を固むるに外ならず、されば僅少の金額にて購ひ得べき外国の文学思想抔などは、続々輸入して日本文学の城壁を固めたく存候。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000305/files/2533_16281.html

とあります。大砲ではなく城壁でした。

描かれた歴史

@moriful2 ありがとうございます。『歌よみに与うる書』って題しか知らなかったのですがこんなこと書いてあるんですね。背景も知りたいので解説がついたものを探してみようと思います。

描かれた歴史

@miyarisayu
カタログの図録部分を一通り見た。
木下直之氏の論考に沿う4章「戦争の造形ー台湾、西南、日清、日露戦争」がとりわけ興味深かった。錦絵と洋画に加え、雑誌と写真帖が入っているのはすばらしい視野だと思う。雑誌や写真帖の巻頭には、芝居の配役を示すように、戦争に関わった国家元首あるいは政治家や軍人の肖像写真が並ぶ。実際に印刷博物館の小川一真展で見てぎょっとしたのが記憶に新しい。芝居絵の形式を大いに活用した錦絵から、写真表現までが、民衆の物語消費という線で繋がっている。写真は戦闘自体を写すことができないため、絵画が臨場感を伴う戦闘場面を担うことになる。

描かれた歴史

@miyarisayu 木下氏のこの本は近いことを扱っていそう。
『戦争という見せ物 日清戦争戦捷祝賀大会潜入記』
https://www.minervashobo.co.jp/book/b122497.html
でも『描かれた歴史』では台湾出兵から始まっているのが大事。野蛮イメージの形成。

あと石井柏亭の書物がいくつか参照されており、気になる。柏亭は文筆活動かなりしてるのね。
『美術の戦』
https://www.kosho.or.jp/products/detail.php?product_id=215372284
表紙がタイトルに反してゆるふわだけど「海外に於ける日本人の個展」「絵画に取扱はれたる近代戦争」とか何が書いてあるのか気になる。
国会図書館でデジタルデータが公開されている。