「アウシュヴィッツ」という言葉は、ナチスのシンボルのように語られ、現代社会における最悪の歴史的事実として認識されている。たしかに最悪であり、どんなことがあろうとも二度と繰り返してはならない大惨事だが、それを中心に歴史観が構築され、あまりにも上位に置かれているため、ナチズム研究者自身が実はホロコーストやナチズムと十分に向き合い切れていないのではないか、というのが私が今日問いたいことだ。
それはとりわけ「いないこと」「なかったこと」にされるものに対して関心がとても弱いことに表れている。ナチスが迫害したのはユダヤ人だけでなく、ロマ(かつてジプシーという蔑称で呼ばれた)もいる。そのような研究がもっとたくさんあっていいはずなのに、基本的に「ナチスの虐殺」といえばユダヤ人に対するものに収斂(れん)される。
ドイツ現代史研究の取り返しのつかない過ち――パレスチナ問題軽視の背景 京都大学人文科学研究所准教授・藤原辰史 | 長周新聞
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