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『プラットフォーム資本主義を解読する』(ナカニシヤ出版,2023)
https://www.nakanishiya.co.jp/book/b10031736.html

やっと読み終わったので、紹介と感想を。

すごくざっくり紹介すると、ニック・スルネック『プラットフォーム資本主義』(人文書院,2022)で提示された論点を踏まえつつ、日本で関連する論考を発表している論者たちが、それぞれの研究のエッセンスを紹介し、さらに深く学び考えるためのガイドを提供する、といった一冊。

各章末尾に「ディスカッションのために」と題して、本書の記述をベースにしつつ、さらに議論を進めるための論点が提示されていて、ワークブック的な使われ方が意図されていることが分かる。単に読む、というよりは、ゼミや、読書会で使う本であることが意図されている感じではないかと。

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本書では、ユーザが自ら進んで巻き込まれていく、巨大テック企業の運営する各種プラットフォームが、労働のあり方を再編し、創造性のあり方を変容させつつ、普段は可視化されていないが人種の力学が組み込まれていたり、ユーザの無償の労働を巨大なデータの集積と分析によって収益とする構造や、そのあり方の問題点が、さまざまな角度から論じられている。

さらに、各章に「引用・参照文献」リストが提示されており、各章の執筆者自身の関連著作や、内外の重要文献が紹介されているのがポイント。
「引用・参照文献」を眺めているだけで、プラットフォーム資本主義をめぐる問題群に関する、内外の主要な論客の名前に触れることができるし、さらに読み進める際のブックガイドとしても有効だろう。特に未邦訳の文献は今後の邦訳が待たれる文献でもあるかと。

どの章が面白いかは、それぞれの関心のありかによって異なるだろうが、少なくとも、第1章「プラットフォーム資本とは何か」(山本泰三)、第6章「人種化するプラットフォームと向き合う」(ケイン樹里安)、第10章「プラットフォーム資本主義の光景と新封建主義の傾向」(水嶋一憲)、あたりは、基本的な問題構造を理解するためには必読かと。

個人的には、就職情報サイトをプラットフォームとして捉えて分析した第2章「プラットフォームに囲い込まれた大学生」(妹尾麻美)が、全く自分の視野に入ってなかった視点を開いてくれたという点で刺激的だった。
あと、第8章「プラットフォーム資本主義の環境的基盤」(山川俊和)の注に出てくる、日本の再生可能エネルギー政策の問題点を表現した「炭素魅了型政治経済構造」というキーワードは、覚えておくと良さそう(使う場面があるかどうかはわからないけど)。

なお、「まえがき」の付記には、「編者の一人であるケイン樹里安氏は、2022年5月、病のため他界した」が、「その情熱は本書の端々に息づいている」との記述がある。今さらかもしれないけれど、本書を世に送り出してくれたことに感謝しつつ、ご冥福を祈りたい。

@tsysoba 学問という「意思」の産物に、「情熱」を託せるのは、素晴らしい学者にのみできることだと考えてます。R.I.P.ケイン樹里安