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http://www.mklo.org/mklo/wp-content/uploads/2024/05/60e679ff8a4b2a23f04d97cb21344e27.pdf

先週の話で恐縮ですが、日本歴史学協会を名誉毀損だと訴えていた中世史研究者・呉座勇一さんが、訴えを退けられました。いろいろ不調で所用もあり判決文をじっくり読めていませんでしたが、ほぼ全面的敗訴のようです。この件を当初から見ていた者としては、妥当と思います。

この件は、2021年3月に発覚した、呉座さんのネットにおける長年かつ多方面への誹謗中傷について、学界の問題としてこれを捉えた日歴協が以下の声明を出したことについて、呉座さんが事実誤認があり自分への名誉毀損だと訴えたものでした。

http://www.nichirekikyo.com/statement/statement20210402.html

「女性をはじめ、あらゆる社会的弱者に対する、長年の性差別・ハラスメント行為」という声明の文言の、「あらゆる」という箇所を呉座さんは問題にしました。誹謗中傷はしたけど、「あらゆる」ではないから事実誤認だ、謝罪と賠償を求める、というのです。率直に言って、揚げ足取りの無理筋と思います。

呉座さんのネット誹謗中傷は、地方や国、部落問題などに及んでおり、「あらゆる」という文言がそこまで頓珍漢とは思えません。このことは3年前に、私自身 https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/137817/8c1b9642f73e022e8cab9084b3d75e42?frame_id=478704 の記事で検証し、「あらゆる」にも妥当性があると https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/137817/e8a8d48c630cab3b1f87086c2c3d38ef?frame_id=478704 で論じました。

呉座さんの訴訟は、呉座さんの件を受けて出されたオープンレター「女性差別的な文化を脱するために」との訴訟でも敗北的な和解を余儀なくされており、日歴協の件での敗訴も驚きではありません。そのこと自体への考えは和解時点で https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/137817/73f1851d4b0203c2b0d97938267b6d85?frame_id=478704 に書いており、特に考えは変わりません。

ただ私が判決文でびっくりしたのは、前掲私のブログ記事が、判決に登場していたことです(20ページ)。しかも証拠番号が「甲」で始まっているということは、原告の呉座さんの側が使ったらしいです。しかし該ブログは日歴協の声明を支持する文脈で書かれており、呉座さん側の支持材料になるかというと…

どういう文脈で使われたかはよく分かりませんが、行間から推測するに、事件後呉座さんはツイッターのアカウントは削除されたので、誹謗中傷ツイートの追跡は困難になっており、嶋も日歴協が挙げたツイートのごく一部しか画像で紹介していない、日歴協は検証困難なことを声明した、というのでしょうか。

私は事件後半年経って5ちゃんねるを漁り、呉座さんのツイートのスクリーンショットを200点近く集めました。率直に言えば、それを全部ひとまとめに公開すれば、私の論の補強には役立ったのですが、「さすがにこれ全部出したら呉座さんの傷に塩を塗るよなあ」と、引用は一部にとどめました。

例えば、判決に添えられている、日歴協が提示した呉座さんのツイートのうち、部落差別ツイートなどは私もスクリーンショットを持っています。ただそれまで張り付けるのはさすがに気の毒だと思い、さらりと存在を示唆するにとどめました。――そのような配慮が逆効果になったなら遺憾です。

もっとも、私が半年後に集められた呉座さんのツイートのスクリーンショットに含まれないものが、日歴協の挙げたツイートの半分ぐらいにはなります。つまり日歴協有志は、事態発覚するや速やかに情報を収集して対応を協議していたのであり、そのことを呉座さん側は軽く見ていたのではないでしょうか。

ましてや判決文でも一蹴されているように、日歴協声明とオープンレターが「つるんでいる」かのような陰謀論まで展開するとなっては、敗訴は必然だったでしょう。書かれたものを読まず、書かれていないことを読み取ったのです。率直なところ、訴訟戦術に疑問を感じざるを得ません。

判決から一週間余り、今のところ控訴の報は入ってきていません。個人的願望としては、呉座さんの再起を期待するからこそ、無為な訴訟はここでやめてほしいと思います。長期的には、和解や敗訴をきっかけに呉座さんが「ネットの友達」の問題を悟れば、事態の根本的な問題は解決すると思うのです。

前掲ブログでも論じたように、呉座さんの事件は個人的誹謗中傷ではなく、ネット上の「界隈」「クラスタ」がつるんで女性差別を中心とした誹謗中傷を娯楽として遊んでおり、それに地位も名誉もある研究者までもが乗ってしまった、ということです。乗るのをやめれば問題は根本的に解決するのです。

https://x.com/ando_ryoko/status/1784568161666580811

しかもこの件で私自身経験したことですが、彼らのツイートは事実を捻じ曲げたものであることが多く、その誤った解釈を仲間内でエコーチェンバーすることで、まるでそれが事実であるかのようにネット上では思わせることにしばしば成功します。やられた方は数的劣勢があるので、反論しても勝てません。

なぜ、相当の読解力がなければなれない筈の研究者や法曹が、ネット上では無茶苦茶な読解を仲間内で共有してまで他人(主に女性)を攻撃するのか。それは私も考えていますが、これという答えは見出せません。人により事情が違うのが呉越同舟しているということはありそうですが。

ともあれ、この判決をきっかけに、呉座さんがそういったネット上の「界隈」「クラスタ」が悪縁であり諸悪の根源であることについてしっかり認識され、そういった関係から距離を置かれるのであれば、学界での地位と名誉の回復には何らの障害がなくなります。私はそれを願ってやみません。

敗訴はむしろ呉座さんにとって好機と思われます。私は左程丹念にツイッター上の情報を追っていたわけではありませんが、今回の判決について、確かに「不当判決だ!控訴だ!」と吹き上がっている徒輩はある程度確認できますが、意外と多くありません。オープンレターを「呉座叩きだ!これでは人文学の将来が!」と叩いて盛り上がっていたのと比べると。

呉座擁護の名のもとにオープンレター叩きに加担していた連中には、ネット炎上大好きな連中の他にも、ネットの俗情に阿ったとしか思えない研究者も少なからずおりました。しかし今回、私の知る限りでは、そういった人々が判決を非難するような振舞はあまり目につかないのです。冷たいんじゃ?

とはいえ、オープンレター叩きがなくなったわけではありません。むしろ先月の、呉座さんの件で尻馬に乗って北村紗衣先生を誹謗中傷していた雁琳なるHNの元京大院生が、かなりの額の慰謝料を命じられた判決では、敗訴にもかかわらず「不当判決だ!」と北村叩きが盛り上がっていました。

ところがこの北村叩きの雁琳支援の声の中に、注目すべきものがあるのです。それは、対オープンレター名誉毀損訴訟を敗北的な和解で終わらせた呉座さんを、敗訴した雁琳と比べて「ケツ割った」と非難する連中がかなりいるのです。そのような非難の一端を画像にまとめてみました。これはひどい。

この画像は、kafkaesque さんのブログ(https://kensyoiinkai.hatenablog.com/entry/2024/05/14/071028)に収集されていたものを拝借しました。自分でも少し集めていたのですが、こちらの方が網羅性が高かったので。ここで記して感謝の意を申し上げます。

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ともあれ、呉座さんの騒動を「人文学の危機!」とか騒ぎ立てていた連中の相当部分は、実は人文学どころか呉座さんの人生すらどうでもよく、自分たちが女叩きを楽しむための手段としてしか呉座さんを見ていなかったのです。そのことは3年前にこの記事の末尾で指摘しました。

https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/137817/783073f0d36fa5ed86e5c3a1aac272db?frame_id=478704

私自身、先見の明を誇るというよりは、3年前から自明だったことがいよいよ醜悪な形で表面化してきたと感じざるを得ません。ネットの「お友達」は、たしかに敵に回すとたいへん厄介で面倒なのですが、味方としても実は頼りなく容易に切り捨ててくるのです。そのことが明らかになったのが現状です。

だから、否応なしにネットの「クラスタ」「界隈」のダメさ加減が明らかになった以上、呉座さんもそういった連中と手を切る好機になるはずです。訴訟を吉峯弁護士に依頼したこと自体、彼もオープンレター叩きの有力な一派だったネットの「法クラ」の一員なのですから、悪縁が続いている証でした。

そういったことが明らかになったので(もとから考えればわかると思いますが)、敗訴も前向きに捉えられることなのではないか、私はそのように思っています。しかし、あれだけ騒いで今は判決にも沈黙している連中は、いつまでも悪い仲間と騒いでいるのですから、もうどうにもならないことでしょう。